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中庭の木
ドワーフ三等兵


見栄を張ってますが、
管理人は樹木がわかっていません。

自分で決める!

と言い張る管理人に、樹木の話をしました。
現在進行形の質疑応答です。
え? 私ですか? 私は植木屋さん

中庭の木に託すもの


管理人

設計中の住宅の中庭に、シンボリックな木を一本植えたいのよね。
車椅子なんで、土ではなく板張りの床なんだよね。
床に穴あけて木を植えりゃ、それで育つでしょ?
上にはパーゴラがあるけど、枝は隙間から出るしさ。
「もみの木」がクリスマスに格好いいよな。
他にどんな木があるの? ないでしょ? よし、決まり!

植木屋
.........う〜んと、ヤマモミジ!

管理人
え、あんた誰?
ヤマモミジって何?
設計者は私なんですからね、クリスマスには「もみの木」ですよ。

植木屋
1本の木にすべてを託すんだね。
地面は床で被われ、上にはパーゴラ。
すむ人の行動範囲、おまけに北海道だし、う〜ん、あれやこれや....
ヤマモミジにしようよ。

管理人
すべてを託すって…、まあ、クリスマスしか考えてなかったけど…
そりゃ、自然と親しむとか、車椅子は庭仕事が難しいから、せめてとか…
いろいろ、託すことはあるんだけど…
ヤマモミジって何? 山にある紅葉のこと?

植木屋
海にはないのでヤマモミジ。
かといって高い山とは限らず、人里離れたところは全部ヤマなんだ。
この世界の命名(和名)は実にいい加減なところがあるんだよ。
そのうち面白そうなところを紹介するよ。

管理人
普通の紅葉は、なんて名前なの?

植木屋
北海道では先のヤマモミジが普通のモミジ。
正確に言うとこれはカエデ属(Acer) の仲間で野山に自生するイタヤカエデなんかもそうだし、外来種ではカナダの国旗にデザインされているサトウカエデ(シュガーメイプル)もそうだ。


ただし、いずれも巨木になるし、枝振りがおおざっぱで庭木には適さない。
おそらく本州以南だとイロハモミジがポピュラーだと思うよ。

管理人
紅葉は紅葉と思ってたけど、どうも1つじゃ無さそうだなあ…
何種類くらい、あるもんかね?

植木屋
モミジの種類ですか。
数えたことないし、寒い北海道に適したものはどのくらいあるのかな。
しょっぱい海の遥か彼方のものをいれると20〜30種類はあると思うよ。



管理人
使い分けができないや。やっぱり「もみの木」!
紅葉は落葉するしな?「もみの木」なら手間入らず!

植木屋
おっと、単なる偶然とはいえモミとモミジではまさに「いちジ」違いだね。
でもモノはまるで正反対。
なるほどモミは常緑の針葉樹だから葉が落ちない利点はあるね。

管理人
ふふふ、「もみの木」に決まり!

植木屋
ただ残念なことに狭い中庭で問題になるのは、下枝が広がっているため車椅子の方が外にでて動き回るのには障害がありそう。


管理人
ふふふ、ふーう?
下枝…?
確かに狭い中庭だし…
車椅子だと、低い枝が顔の高さ…?
「もみの木」に近付けない…

植木屋
かといって、下枝を切り落とせば、味わいのないモミになるでしょう。
どうしたらいいかな。難しいねえ。

管理人
下枝…、下枝…、下枝…

植木屋
MacintoshのFEPことえりで「もみじ」をたたいてごらん。
紅葉が出てくる。
このときだけ賢いやつだと実感できる!?

管理人
何の話してるの! 下枝よ! し・た・え・だ!
どうすりゃいいのさ!



植木屋
間取りからすると…
夏は強い日ざしを遮り、冬は日ざしを受けたいんでしょう。

管理人
いつの間にプラン見たの?
でも、ねらいは、その通り! それで?


植木屋
柔らかい木漏れ日、目のさめるような紅葉、生命の息吹を感じる春、小枝が白いコートと小さな氷のブローチを身にまとって自慢する。

管理人
そうそう、その通り! それで?

植木屋
これだけ体験できれば言うことなし。

管理人
そうそう、だから?

植木屋
冬の針葉樹は数あるなかの1本ならいいけど、
夏は暑苦しく、冬は日ざしが期待できないよ。

管理人
そうとも! 針葉樹なんて駄目さ!
中でも「もみの木」なんて!
それで?

植木屋
それぞれの木には、見合った姿というか樹形があるよね。

管理人
ふむふむ、樹形ね。

植木屋
パーゴラの隙間から顔を出していくモミの木は想像したくないよ。

管理人
そうとも!
格子状のパーゴラだしな! …なぜ知ってるの?

植木屋
さもなくばパーゴラを解体しなくては。

管理人
そりゃ困る!



植木屋
樹木の寿命はそのほとんどが人間さまより長い。それなのに相手のことおかまいなしに自分達の都合良いように扱おうとする。
少なくても20年後どうなっているかを考えてほしいね。家をたてるときだって自分達の老後や子供の成長を頭に入れて設計するでしょう。

管理人
樹木は住人より長生きか…
そうだよなあ…

でも、そうなると、ヤマモミジならOKの訳が知りたいね。
100年たったら巨木じゃないの?
パーゴラとの相性はどうかね?

植木屋
100年経たなくても、パーゴラの隙間からどんどん枝を伸ばすだろうね。

管理人
あのね、それじゃ、ヤマモミジでもダメじゃない!
さっき、モミはダメでヤマモミジならって…

植木屋
えへん。そこで庭師さんの登場!

管理人
ハア?

植木屋
狭い庭とのバランスをとる。木をあまり大きくしないように「剪定」する。
それができるのがモミジ、難しいのがモミ。
モミのような針葉樹は、芯が真っ直ぐ伸びてこそ価値があり、美しいからね
モミジだと樹冠が広がるし、枝を整えればパーゴラとの相性は問題なし!

管理人
なるほど、手入れをするわけねえ…
そうだよなあ、木は生き物だもんなあ…
建物は成長しないから、ちょっと盲点だったよなあ…
メンテナンスとは違うよな、生き物の手入れとなると。

植木屋
そうそう、管理人さんのお父さんは盆栽のプロだよね。
まさに、これを極めたのが、この世界のひとたちなんだ。
私より詳しいと思うよ。

管理人
なんで知ってるの! うちの家族構成まで!