Hatanaka-Family
<実施プラン>

by aoyama 2000.12.22
畑中プロジェクト



高低差3mを越える北斜面です。
そもそも陽差しを期待するのは難しい敷地です。
南側は一段高い隣地の上に、間口一杯に倉庫が建っています。
太陽高度が高くなるお昼ころには、藻岩山が日射を遮るという至れり尽くせりの条件です。
朝日はどうかと言いますと、ちゃんと隣家が遮ってくれますし、
西日も3階建て相当の隣家が構えており万全です。
直射は期待せず天空光が頼りです。


<現地はこんな傾斜です>


<この難工事の現場監督は女性です>


前面道路のある北側はひらけています。
正面に札幌の市街が望めます。
大通り公園のテレビ塔が見え、夜景もなかなか綺麗です。
せめて、
このロケーションを活かすことにしましょう。


<目を凝らすと遠くに…>





西側の外観です。
道路の関係から、このアングルでアプローチすることになります。
図の左側に前面道路があります。
手前は私道で南に向かって登っています。

私道の勾配を利用することで、建物を低く見せています。
実際には、建物の南部分は2mほど高いのです。
でも、私道と屋根のレベルを調整できたので、水平方向の広がりを出すことができました。


<これが実物:高低差は計算通りのイメージ。一安心です>



前面道路から見た外観です。
敷地は南北だけでなく東西方向にも傾斜しています。
そのため基礎の高さも一様ではありません。


<この基礎工事は職人芸です>


<これだけの高低差を、前述の私道の傾斜を利用して外観から消し去ったわけです>


<左から、現場監督・専務・設計者・施主夫人:撮影施主>



東側の外観です。
手前にある28畳相当の外部デッキが特徴です。
この部分の基礎は本体とレベルが異なり、床のレベルも微妙に違います。
屋内は3つの床レベル、デッキは2つの床レベル、それらの最下層と最上層は同じレベルです。
施工しながら、さぞかし混乱したことでしょう。
3次元CADによる設計の威力です(なんとも迷惑な…)

 
<木製デッキ:とても広いですよ。楽しんで下さいね>





手前がカーポートを兼ねたアプローチです。
全部で6層ある屋内の床レベルの変化がお判りになりますか?
これで外観は平屋なんです…



手前が屋外の木製デッキです。
外壁が三角形の部分にロフトがあります。



正面から見たロフトです。
ロフトのドアの奥には書斎があります。



<実物はこうなりました>


<ロフトのドアの奥にある書斎です>


<ロフトから向かい合う外壁を見ています。ここの天井高さは5m>





2次元の平面図ではこうなります。
赤字でレベルを示していますが、果たしてどこまでイメージできるでしょうか…
3次元による設計は建築を変えると思います。



生活のシーンを描いてみました。
この住宅では部分と機能の関連は希薄です。
どこで何をするかを出来るだけ固定しないようにプランニングしたからです。
その結果、ゾーニングの意味も従来の設計法とは違います。
そして動線計画も…。

どうしても室名で呼びたければ、玄関もありますし、ダイニングもあります。
でも、室名に合わせて暮らすって、何か変だと思います。
自由に、気ままに、自然体で…
主役は、建築ではなく人間なのですからね。



<玄関方向:珪藻土と木だけで仕上げた柔らかい空間です>


<ラウンジピット:窓からの光もサーモスクリーンで障子のように柔らかく>







いわゆる設計図の表現です。
これだけでは、このプランをイメージするのは困難です。
素人であるクライアントにわかってもらうためには、3次元の表現が必要になります。




「環境(environment)と行為(activity)」
<第0案>




これは第ゼロ案です。
現地を見たときに設計者の頭に浮かんだプランです。
あまりにストレートなのでクライアントには内緒にしていたプランです。
平面図だけでわかりますか?



このプランでは内外の空間を区別していません。
ちょうど騙し絵のように、どちらから見るかで内外の関係は入れ替わってしまいます。
また、全体を一度に完成させない建て増し方式なので、
プランの変更もあり得ます。



このプランには実施案よりもさらに多くの床レベルがあります。
また、ここにある下層階の上に、上層階の床を載せると、空間はもっと豊かになります。
敷地の傾斜を有利に活かすわけです。

ご覧のように玄関さえ固定しないプランですから、室名は完全に無意味です。
機能を割り付けるといった、従来の設計ではないのです。

「フリープラン」とは間取りを自由に変更できるプランのことですが、じつは設計者の手抜きと同義です。
この第ゼロ案は自由に暮らすという意味の「フリープラン」です。
設計は難しくなりますよ。
なにしろ、機能を決めないで空間を創るのですからね。

住宅はみんな同じでつまらないという方、この第ゼロ案はいかがです?
現在の生活が、いかに間取りを頼りに暮らしているかを実感できると思います。
名前も目的も決まっていない空間で、あなたはどんな生活のシーンを演じるのでしょう?
さあ、イメージして下さい。