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わたしはCADがわからない…
天の声


見栄を張ってますが、

じつのところ、管理人はCADがわかっていません。

VectorWorksを語る!

と言い張る管理人に、まずはCADの説明をしました。

以下は、その抜粋です。

え? 私ですか? 私は天の声…


そもそもCADとは?
 

CADは「キャド」と読んで下さい。

ですから、MiniCadは「ミニ・キャド」。

ちなみに、MiniCadの後継のVectorWorksは「ベクターワークス」です。

 

さて、ワープロや表計算ソフトは知っていても、CADを知っている人は多くはありません。

「キャド」の呼び方から始めたのも、的外れではないはずです。

 

CADには「専門家向けのソフトだから難しい」との先入観があります。

これは、他の多くのソフトにも言えることですが、たぶん間違いです。

専門家の持つ知識とソフトの操作は別物です。


そもそも昔は…


ここで、管理人の昔話を紹介しましょう。この人の話は、ぐるっと一回りして元の場所に戻りますから、斜め読みでも構いません。最後はCADに戻りますから、ご心配なく。



しろすけ会員のコラム「一刀両断」を拝見して、手描きの時代のことを思い出しました。
まずは、「建築の設計者が図面の精度に神経質であるのは何故か?」について。

そもそもは受けてきた訓練の賜物でして、線がずれたり、太さにむらがあると、すかさず赤鉛筆でチェックが入るという学生時代を過ごしているわけです。長い線を引くと鉛筆の芯が減りますから、線の太さは変化してしまいます。同時に定規に当たる芯の位置も、太くなるにつれて移動しますので、描かれる線と定規の位置関係が変化して、線はずれてしまいます。だから、鉛筆を廻し(ころがし)ながら、芯の周囲を均等に減らすことによって、同じ太さの線を引くという訓練を受けました。

強い線を出す

 
それと同時に、強い線を出す訓練も受けました。青写真(青焼き)を取るときに薄い線では、コピーがとれないからです。柔らかくて濃い鉛筆なら力はいりませんが、なにせ精度をだすために堅い芯を使っています。そのため、鉛筆が(芯ではありません)折れるほど力を入れないと濃い線は出ないのです。いやあ、最初は指が痛くてかないませんでした。そのうち、親指で上から押さえつけるという秘術を教わり、おかげさまで楽になりました。小学校で習った、正しい鉛筆の持ち方は、今となっては思い出せません。

定規が動いてしまう

 
つぎなる問題は、定規が動いてしまうことです。鉛筆に力が入ってますから、それに押されて定規が動くというわけです。これも最初は、押さえている指が白くなるほど力んでいましたが、手のひらの外側全体で押さえるのだ、という秘伝を習って解決できました。しかし、今度は力を込めた腕が痛くてかないません。ちょうど片手で腕立て伏せをしている状態ですから、アンバランスに筋肉がつきそうです。すると、さらなる秘伝がありました。体重をかけるというのです。つまり、力ではなく重さを利用するわけです。これで一気に楽になりましたが、体重をかけるためには立たねばなりません。座っていては不可能なのです。
 

製図は座業ではない


こと、ここに及んで、私は悟りました。製図は座業ではないのだと…。常々から、製図用の椅子の座面が異常にちいさく、しかも高すぎることが疑問でしたが、これで納得がいきました。あの椅子は、文字を書くときなどに、ちょっと腰掛けるだけで、大部分の時間は立っているのが製図なんだ! これは足腰を鍛えねば、と私は考えたのでした。

白状します


以上のテクニックは、卒業してからはこなれたものになり、座ったまま、力も使わず図面を描けるようになりましたが、そもそもの目的である精度だけは譲れませんでした。今でも1ミリの間隔に5本くらいの線を引くことはできると思います。また、無意識のうちに、線の太さで遠近感を表現してしまうと思います。なぜなら(白状しますが)、今でもCADの図面を見ると、物足りないんです。つまり、線が生きていないことに違和感があるのです。

遠近感を表現する


2次元しかない手描きの製図では、線の太さで目からの距離を描き分けていました。近くのものは太い線で、遠くのものは細い線でというわけです。この表現方法は建築独特なのかも知れません。機械製図では、図面から型を取ったりする場合もあるでしょうから、何より精度が最優先であると思います。土木の測量図や地形図も縮尺からいって、太い線を使うと誤差が大きくなりすぎるでしょう。いずれにしても、線の太さは規約に従って使い分けられ、図面に遠近感を表現するため、というような余裕はないだろうと思います。では、なぜ建築の図面には、その余裕があるのでしょう?

建築を表現する図面


私には、本当の意味で生きた線を出すだけの腕前はありません。でも、そのような図面を見たことはあり、それ以来、そのレベルの図面は見ないように注意しています。その図面は、とても立体感があり、描かれているすべてに質感が備わっていました。鉛筆で描かれた2次元の平面図にすぎないのに、です。まるで、実物を眺めているような重量感があり、その場の空気の温度や密度まで感じられたのです。そうですね反響の具合や匂いまで伝わってきましたよ。そのとき、つくづく思いました。これが建築を表現する図面なのだと…。

設計者が創りたいのは…


建築の図面には施工の指示以外に、伝えたいことがあるんです。と言いますか、建築設計者が創りたいのは、むしろ施工されるモノ以外の部分なんです。ここが他の分野の設計図との大きな違いであろうと思います。建築の図面は、言うなればネガなんですね。モノを創るための図面ですから、モノが主役と思われがちですが、設計者が創りたいのはモノで切り取られた残りの部分なんですな。ですから、注目しているのも、モノの外側なんです。
たとえば、壁の厚みの表現に誤差がある場合、一般の方は、壁が厚いとか薄いと受け止めますが、設計者は空間の広がりに誤差があると見てしまいます。さらに困ったことに、設計者は、その壁の存在感が空間に与える影響を計算しています。落ち着いた空間、軽快な空間、といった性格付けをするからです。ですから、床柱のような空間にとって重要な要素になると、たとえ線1本の誤差でも空間のバランスが崩れます。「許せないわ!」なのです。

コンピュータの時代


しかし、今はコンピュータの時代です。かつてのように、線だけで建築を表現する必要はなくなっています。むしろ、職人芸に頼らなくても、様々なソフトを利用して、目的の空間を表現することが可能になっています。施工のためには2次元CADがあり、設計のためには3次元CADがあり、プレゼン(空間表現)のためにはレンダリングソフトがあります。仮想現実やムービーや各種オーサリングソフトや、その他諸々のソフトや環境が利用できます。
紙の上に固定された図面だけに頼る必要はないのです。視点を移動し、時間軸を移動することで、また、様々なシミュレーションを繰り返すことで建築のレベルを高めることができる時代になったのです。形状以外のデータまで活用することが当然になっても来ました。

2次元CADの危険性


昔も今も、建築の設計者が伝えたいことは変わりません。ただし、コンピュータのおかげで設計の水準が高まり、より複雑で高度な情報を、効率よく伝達する必要に迫られています。現在の時点でCADを導入すべきか悩んでいる設計者はいないと思いますが、その先が見えなくて悩んでいるケースは多いのではないでしょうか? または、2次元CADだけで安心しているケースもあるのでは、と危惧しています。
言い切ってしまいますが、2次元CADだけでは設計者が伝えたい空間を表現することはできません。また、3次元CADで行えるレベルでの空間の確認もできません。2次元CADでは、手描きの生きた線には遠く及ばない図面しか描けないからです。2次元CADに安住することは、とても危険であると思います。CADの線に馴らされることで、いつしか、空間を描かなくなるかも知れません。そうなってしまったら…、合掌。